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名古屋高等裁判所 昭和48年(ネ)250号 判決 1974年7月30日

控訴人 成宮宇

被控訴人 早川秀子 外三名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が訴外高井清一に対する富山地方法務局所属公証人佐々木厳作成昭和四三年第七八六号譲渡担保付金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本および同法務局所属公証人井川正夫作成同年第四〇五号譲渡担保付金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づく、昭和四六年五月三一日原判決添付物件目録記載番号第三、第一九、第二五、第三二、第三六、第三七、第三八、第四〇の各物件についてした強制執行を許さない。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じこれを五分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

本件について津地方裁判所四日市支部が昭和四六年六月二八日なした強制執行停止決定中、第一項掲記の各物件に対する部分はこれを認可し、その余の各物件に対する部分はこれを取消す。

前項に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴代理人の主張)

一、原判決は「動産譲渡担保の機能を確保するためには原則的には第三者異議の訴が必要である。」と認定しているが、およそ債権担保のために動産につき所有権移転の形式をとり、債務者がこれを使用収益する場合には、債権者に優先弁済権を認めるのは格別、右担保の目的をこえて、その所有権を主張して第三者異議の訴によつて後順位債権者の強制執行を全面的に排除することは許されない。したがつて、原判決は「例外的に譲渡担保の目的物の価格が被担保債権額を超過し、しかも執行債権者がほかに差押えて満足をはかるに足るだけの資産を債務者が有しない……場合に限り第三者異議の訴は認められない。」と判示しているが、右条件が具備すると否とを問わず右訴は提起できないと解すべきである。

二、仮に右条件の趣旨が是認できるとしても、前項記載のごとく、譲渡担保権者は第三者にその目的物件の所有権を主張し第三者異議の訴を提起できないが、ただ譲渡担保権者が、譲渡担保の被担保債権額がその目的物の価格を超過し、しかも執行債権者がほかに差押えて満足をはかるに足るだけの資産を債務者が有する旨主張立証した場合に限り、右訴の提起ができると解すべきで、原判決のごとく、原則として右訴は提起できるが、例外的に条件が備わつた場合にのみ右訴の提起ができないという法律上の原則、例外の関係と解すべきではなく、右に述べたように、あくまで右訴の提起の要件を追加したものと解すべきである。

そうすれば、原判決のごとく、右条件の具備の主張立証責任を執行債権者たる控訴人に負担させるべきでなく、かえつて譲渡担保権者たる被控訴人の負担とすべきである。

(被控訴代理人の主張)

一、被控訴人らの被相続人亡早川喜久男は、昭和四四年四月五日当時訴外高井清一に対し、金二〇〇万円の貸金債権を有していたものであり、右債権を担保するため、動産売買および賃貸借契約公正証書(甲第一号証)を作成したのである。

二、原判決は、亡喜久男の訴外高井に対する債権を金一〇〇万円と認定し、昭和四四年四月当時、訴外高井鉄工所がすでに不渡りを出し、競売申立がなされていた事実をもつて、亡喜久男が訴外高井に対し新たな金一〇〇万円の貸付をなすことはありえないとして、金二〇〇万円の債権を否定しているが、これは事実に反する。いわゆる町の金融業者は、過去の長年の付合、回収の腹つもり等の思惑から、銀行等と異なり、債務者に対し、なお資金供給を続けることは、しばしばあるのであり、本件においても、亡喜久男がさらに金一〇〇万円を出資したとしても何ら不自然はない。また、それ故にこそ債務者は、右公正証書を作成したのである。

三、譲渡担保権者の権利確保は、第三者異議の訴によつてこそその目的が達しうること、原判決のとおりである。

本件において、訴外高井の資産はみるべきものはなく、被控訴人らは、本訴請求において認容されてはじめて権利確保ができるのである。

(証拠関係)<省略>

理由

一、当裁判所は、被控訴人らの本訴請求は、原判決添付物件目録記載番号第三、第一九、第二五、第三二、第三六、第三七、第三八、第四〇の各物件についての限度で理由があるものとして認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・加除するほかは、原判決理由欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人は、従来弁済期限が一、二ケ月であつたのが、甲第一号証(公正証書)では一挙に三年となつていることをもつて、甲第一号証が虚偽表示であることを立証する一つの資料としようとしているようである。しかしながら、公正証書にしたことによつて弁済期を延ばすことも十分考えられることであるから、控訴人の右主張は理由がない。

(二)  原判決八枚目裏の始七行から九行目にかけて、「同番号二〇の四個中三個が同六五〇×五〇〇×三四七横押用定盤二個及び一二七〇×六三一×四二七縦押用定盤一個に、」とある部分および原判決九枚目表の始七行目中「二〇の中の三個」を削る。

(三)  原判決九枚目表の始一行から六行目にかけて、「その他の………あつてみれば、」とある部分を、「その他の甲第二号証下欄に対応物件として一応特定して記載されている物件は、にわかに原判決添付物件目録記載の対応物件とは認め難く、以上のほか、甲第二号証下欄に『その他治具、工具、部品、製品、設備、材料等の一切』という表示で対応物件とされる物件は、甲第一号証物件目録と照合して見ても、そのどれに属するかの特定を欠いており、しかも、材料・部品・製品等はその性質上変動するものであつてみれば、」と訂正する。

(四)  原判決九枚目表の末行の後に、「別紙物件目録番号二〇の角定盤四個については、甲第一号証物件目録記載の六五〇×五〇〇×三四七横押用定盤二個および一二七〇×六三一×四二七縦押用定盤一個は、成立に争いのない甲第六号証物件目録番号二〇の角定盤四個のうちに含まれるものと認められるが、本件全証拠によるもそのいずれであるかを特定する手懸りがないので、甲第一号証物件目録記載の右物件三個の全部につき、認容するをえないこととなる。」と加える。

(五)  原判決九枚目裏の始一行から一〇枚目表の始四行までを削り、そのあとに、次のように加える。

しかして、譲渡担保は所有権移転の形式をとるが、その実質は債権担保を目的とするものであるから、譲渡担保権者には被担保債権額の範囲で目的物の価値を把握せしめれば足りる。したがつて、譲渡担保の目的物に対しなされた強制執行については、目的物の価額が被担保債権額を上回るときには、譲渡担保権者に第三者異議の訴を許す必要はないが、目的物の価額が被担保債権額を下回るときには、譲渡担保権者は、第三者異議の訴をもつて、その排除を求め得るものと解するのが相当である。それ故、譲渡担保権者が強制執行の目的物につき所有権を主張して第三者異議の訴を提起したのに対し、執行債権者から譲渡担保にすぎない旨の主張が出されても、譲渡担保権者が目的物の価額が被担保債権額を上回らないことを主張立証すれば、第三者異議の訴を維持することができると解するのが相当である。

そこで、本件についてこれを見るに、成立に争いのない甲第四、第六号証によれば、前記認定の本件譲渡担保物件の価額は、前記認定の本件被担保債権額一〇〇万円よりも少額であることが認められ、この認定を左右する証拠はない。

そうすると、被控訴人の本訴請求は、原判決添付物件目録記載番号第三、第一九、第二五、第三二、第三六、第三七、第三八、第四〇の各物件についての強制執行の排除を求める部分は理由があるから認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

二、よつて、右と結論を一部異にする原判決は、右認定の限度で正当であるが、これを越える部分は失当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を変更することとし、民訴法三八六条、九六条、八九条、九二条、五四九条、五四八条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村義雄 西川豊長 寺本栄一)

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